ネジ巻き事件簿

精神的肉体的社会的側面から見た事件史。

津山三十人殺し~8.救いはなかったのか?~

皆様、おはようございます。

長らく引っ張ってきた津山事件の終章です。

実は、都井睦雄を事件の前から本気で心配している人がいました。

「貝尾で殺傷事件が起こっとるらしい」

という第一報を聞いて、即座に
都井睦雄か!?」
と聞いた巡査です。

この人は例の祖母の毒殺未遂騒ぎの時に家宅捜索し、睦雄の屋根裏部屋から銃や弾を見つけて処分させた巡査と同一人物です。

村から一番近い派出所はいつも無人状態で、そこから自転車で行かなくてはならない別の派出所の巡査です。

家宅捜索の時に、睦雄の素直さや、他人に迷惑をかけた事でガックリしょげてる姿を見て
この人は
「村の人間の噂では、いろいろ奇行が多いみたいだが、根本的には良い子なんじゃないか」
と思ったようです。

それで、度々、村に来ては睦雄に
今みたいな無為な生活してちゃいけない、よかったら、鉄道職員の仕事を紹介する
と時々話しています。

職務上、多少は上から目線な物言いだったでしょう。
しかし、将来の具体的な事も含めて案じてくれる人は多分、この人だけでした。

もう一人、津山市や大阪、神戸に行く時に会っていた今井某ですが、
家族や仕事の話をふると即座に顔色が変わるので、適度な距離を持ちつつ一緒に遊んでいたようです。

もう一人、同じような遊び仲間がいましたが、調べても、この人はよく分かりませんでした。

今井某は言わば「間接的な共犯者」と呼ばれても、飄々とした人物らしく警察の事情聴取にも正直に答えています。
睦雄が安心出来る上にアレコレ頼める(便利だったりパシりだったりだとしても)、さりとて法外な手数料を取る訳でも、しつこく理由を聞いたりもしない、気軽な男友達だったようです。

あの惨劇を避けるのに一番いいのは
集落から出る事でした。
しかし、中学進学の時同様、祖母が泣いてわめいて引き止めていたかもしれないし、
中学進学の時とは違い、老いが加速している祖母を一人にするのは、さすがに不憫だったと思います。

今なら、どうなっていたでしょう。

不良になるとか。

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↑当時のファンは、メンバーのほとんどが大卒だと知らず、ガチでツッパッてたと思い込んでらしたのです。
そう。
メディアはこんな風に
売るためには不良のコスプレ(?)までさせて、本当の不良にレコードを買わせていました。
みんなが騙されやすい、ある意味、のどかな時代です。

しかし、睦っしゃんには、こう、都会的で知的でナイーブな不良が似合う。

こっちが似合う。
知的で都会的!

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↑わざわざ、嫌いな学校へ夜に忍び込んで、窓ガラス壊すなよ。
器物損壊だぞ。
それと、ヒトサマのバイク、盗むな。


「綺麗なのは汚い女の子
汚いのは綺麗な女の子」

これに尽きます。

そう、現実は都井睦雄が考えるような
地獄でも天国でもない。

この事件の後、日本は勝ち目のない泥沼の戦争へ突入して行き、
甲乙どころか
丙種や35才以上まで徴用される事になってしまいました。

都井睦雄の姉のサユリですが
松本清張氏の本では早々に亡くなった事になっています。
が、これは松本先生の配慮です。
実は事件後も長生きされてます。
集落からイジメにも遭っていません。

そして、たくさんの事件の本には
都井睦雄阿部定事件に、強い関心を示していた」
と、まことしやかに書かれている物が少なくありませんが
特にそうだと言える証拠も証言もありません。

新聞で普通に報道されているのを読んだりはしていると思いますが、
記事を集めてスクラップ帳を作っていたという証拠のブツもありません。

こんな風におひれを付けて
時には毒々しく時には生々しく
この事件は語り継がれて行くのかもしれません。

今回、この事件を取り上げたのは
別に調べていた事件と似ていると書きましたが、
それだけではなく、私の親戚っつーかご先祖様が、この地域の近く出身らしいのです。

きちんと聞いたりしらべたりはしていません。

だって

 

 

 

怖いじゃないですかっっ‼


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↑大量殺戮のシーンをこんな風に詩的に撮るのが、やっぱり映画監督の、すごさです。

引きこもりやニート
通り魔事件を起こすのと大差ないと取るかどうかはご判断にお任せします。

事件で亡くなった方のご冥福をお祈りします。

津山三十人殺し 最後の真相

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津山事件の真実(津山三十人殺し)

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いつも読んで下さって
特に長い今回のテーマ、
本当にありがとうございます。


 

津山三十人殺し~7.本当に憎んでいたのは誰?~

皆様、おこんばんは。

「事件史」

は年号月日やら時間やら登場人物やら
グダグダ書かなくてはならないわりに
あんまり面白い物が書けそうにないので巻きます。

詰襟、ゲートル巻き、ブローニング銃と日本刀に匕首(短いナイフみたいな物)を持ち、
自力で改造した破壊力アップの弾の連を斜めに下げて胸には自転車用のランプに
頭には、お馴染みの懐中電灯二本。
懐中電灯は特製鉢巻きで前に光が行くようにワンポイント工夫してます。
そして足は地下足袋

なんかマメな睦っしゃんが、手縫いで鉢巻きに袋を縫い付けてる姿が浮かびます。

実際に都井睦雄は器用な人で
度々、電気が止まると電線を直してくれたりしていたそうです。
それが当日は停電。
言うまでもなく、睦雄が昼間に切っておいたのです。
しかも、集落だけしか停電にならないように。
昔の事ですから、集落の人達は「朝になったら直してもらおう」と就寝。

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↑絶叫機械 都井睦雄のフィギア

憎い女たちも里帰りして村にいる。
今夜は決行。

まず、最初の犠牲者は祖母でした。

眠っているところを一気に、手斧で首を切断。

いろいろあって、当時の現場写真を見ました。
いろいろあって、そうした写真を見てきた私ですが
壮絶の一言でした。

特に、祖母の遺体はしばらく絶句しました。

首は体から離れて50センチくらい先に落ちていました。
瞼はしっかり閉じられていますが
どういう訳か、枕に巻いている布、多分、手拭いの端を口がしっかりくわえていて、
結果、枕まで引きずられた形になっていました。
しかも、首の周辺は「血の海」としか形容出来ない状態です。

最初に銃を使うと村の人達に気付かれる、
それと事件の後、祖母はきっと一人では生きていけないから。

だって、田畑や林や家も、財産はみーんな借金の担保にしちゃったし。
生きてても針のムシロになるだろう。
姉さん、許して下さい。

そして凶行の幕が上がります。

ただ、ここですでに違和感を覚えるのです。

村人のほとんどは銃や日本刀で惨殺されています。
遺体も放置されてます。
何しろ、夜のうちに全部、殺すんだと計画してます。
時間がありません。

それにつけても。

近親者や関わりの深い人物を殺した場合、
その遺体は加害者なりに、ていねいに扱うのが普通です。
少なくとも、首と体がかなり離れたままで
そして口に手拭いと枕を、という形で放置していく孫の心理とは何でしょうか。

中学進学が叶わなかった件で
睦雄と祖母はよく言い合いになっていて、それを収めていたのが姉でした。

「後の憂いをなくすため」

とは思えない、普通の「惨殺」です。
今なら「家庭内暴力」と言われても納得出来るほど、
この祖母の遺体は無惨でした。

村の人達を惨殺してますが
銃という殺傷能力の大きい武器なのを考えても、本当に次から次へと殺しています。

と、思えば
家族を床下に避難させて、自分はコタツに入っていた男性のお年寄りには
「睦雄さん、堪えて下さい」
と言われて
「お前は僕の悪口を言わなかったな。けど、後で言うんだろうな」
と見逃していたりします。

何か気まま。
漫画や映画のように、これでもかと執拗に殺害したりはせずに
銃!日本刀!
で一気に!
と無双状態。

最後に胸のランプの電池が切れて
もはやこれまで、と諦め、立ち寄った家で紙と鉛筆をくれと頼みます。
この家の子供は、よく睦雄のお話会に参加していた少年で
睦雄は最後に「よく勉強して偉くなれよ」と言い残して去っています。

あの武装と血まみれな状態で。

この時の警察の右往左往ぶりも、記録を読んでて手に取るように分かります。
何しろ
「大量殺戮事件」
自体がそんなになかった時代。
死亡人数も報告の度に変わるし、しかも増えてるし。

「強盗だ」
「いや、夜盗だ」

と、市警はテンヤワンヤ。

朝になって、村を見渡せる丘。
銃で自殺した都井睦雄の遺体がありました。

ここなんですが、諸説あって、
当時のブローニング銃は銃身が結構、長いです。
武装姿の再現写真でも長さが分かります。
地下足袋を脱いで、胸に銃口を当て引き金を足のおそらく親指で引く、
それをするには少し難しい長さではないかという意見もネットではチラホラ見かけます。
この長さなら顎や頭を撃つのではないかと思いましたが
すみません、火器に詳しくないのでどなたか教えて下さい。

そして遺書なんですが
特定の人妻達への恨みは長く書いているのに、年齢が近い女性たちに関しては
「肉体関係があったのに、酷い」
とアッサリ書かれています。

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都井睦雄

写真を見ると、普通です。
超絶イケメンではありませんが、醜男ではない。
むしろ、どことなく都会的だし、わりと端整です。

若い男性が好きな熟女にウケるタイプと言うか、何となく、少し頼りない雰囲気もあり、いわゆる「母性本能を刺激するタイプ」のような感じです。
ベビー・フェイスの人は家族にひときわ愛されて育ったゆえに作られる事が多く、
睦雄の端整さと少年っぽさは祖母と姉の愛情をふんだんに受けたからだと感じます。

この事件は
「逆恨みの末の、村人を巻き込んだ無理心中」
と分析する人も多いのですが、
やっぱり、私は都井睦雄鬱病みたいな状態で、鬱病の初期には攻撃性や破壊衝動が増す事もあるので、
そんなものが凶行に向かわせたと感じます。

村から出て、転地療養したり
やっぱり通信教育で卒業資格を取ったり
体を治しながらコツコツと出来る事をしていれば、と思っても今は遅いのです。

何より、「誰からも羨望の眼差しで見られる人物」になる必要などなく、
近場の人間に善き事をしていれば
イジメだと感じる事はなかったのかもしれません。

亡くなった方のご冥福をお祈りします。

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↑最近、見慣れてきて「これもアリかも」と思うようになってしまってます。
ヤヴァイ。

津山事件の真実(津山三十人殺し)

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津山三十人殺し 最後の真相

津山三十人殺し 最後の真相

いつも読んで下さってありがとうございます。

次回は終章、「救いはなかったのか?」です。

津山三十人殺し~6.村のイジメはあったのか?~

皆様、おこんにちは。

佳境に入ってまいりました、「津山事件」。

この凶行の要因の最大たるものとして

結核を理由に村人たちからイジメを受けた。
特に女衆のは陰湿で組織的でひどかった」

とゆー説が
まことしやかに書かれている物が
漫画でもルポタージュでも溢れています。

狭い集落ですから
ほんの十数戸。

んー。

あったとは思います。
思いますが、そんなに酷かったどうかは疑問です。

確かに村の端の家で夫婦喧嘩が起これば
三十分後には際端の家に届く村ではあります。

徴兵検査で丙種なのも
男衆からアレコレ言われた事でしょう。

ただ、遺書にある通り
「さんざんヤッといて
いざ僕が結核だと診断されたら、みんなが掌を返したように」
……だったら、隔離とか
遠くに住めと嫌がらせされるとか
そういうのを「陰湿なイジメ」と呼ぶんではないかと。

確かに、距離を置いて接触して来る人もいたでしょう。
けど、子供を集めてのお話会なんかも
ソッコー辞めさせたり、って事はありませんでした。

ここで感じるのは
都井睦雄という青年の
「大人へ移行していく前のしんどさ」
みたいな物です。

夜這いも何人かとしたし、そうしたら一人前。
けれど畑仕事もしないしブラブラしてるし、
そら村の人は心配します(多分、現代でも)。

都井睦雄という人は
人一倍、頭が良かったし
何より感受性が豊かだったのだろうと思います。
なりたいモノになれない鬱屈
どうしても馴染めない百姓仕事
頼りにならない義理祖母
何より、守ってくれて慕っていた姉の嫁入り。

ここに「病」という雷管が投入され「被害妄想的になりやすい」というメンタルの変調が現れます。
だから、他人の何でもない仕草や言い回しが常に自身への不平や不満や非難に聞こえてしまったのかもしれません。

この時に、理解者がいれば
「焦らず、ゆっくり治していこうや」
と言ってくれる人がいれば
あんな結果ではなかったかもしれません。

好きな若い娘たち
みんな、よそへ嫁に行ってしまう。
まるで姉のように。

二十歳になって祖母が後見人から自動的に外れたので、
財産を好きに使っていた睦雄は
それまで健康法にハマっていましたが、キッパリ止めてしまいます。
そして、大阪や神戸に行って
以前からの顔見知りの今井某という青年と猟銃を買い漁り始めます。

今井は睦雄を
「農家の小金持ちの息子」
だと思っていたようで、度々、パシりみたいな事まで請け負って小遣いを貰っています。

この今井某とゆー人物も
後の記録を読んでも詳細が分からない人物ですが、一応は実在してます。

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↑ブローニング銃

そうして屋根裏部屋にせっせと凶器を集めます。

そこでいろんな奇行がはっきり現れて来るのですが、
ある日、祖母にお白湯(お茶という説も)を飲ませようとします。

が、臭い。臭過ぎる!

毒殺される!

と祖母は近所に相談しますが
いろいろあって巡査が来ます。
巡査は「外の人」という意識なので祖母は
「中身は『わかもと』です。毒殺なんか、うちの可愛い孫はしません」
と言います。

……「わかもと」……そう。
アノ、ビール酵母やらビタミンやら整腸剤やら混ぜた、当時のサプリメント

私が知ってんのは液体スプレータイプだったんですが
かなりの距離からでも

 

 

強烈に臭い


のです。
現在は錠剤で臭くはないと思います。

仮に、毒だとしても
何だか分かりません。
何だか分からないまま、毒殺未遂?は
うやむやになります。

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↑今でも愛好家が多いです。便秘にも効きます。

巡査は家宅捜索をして
屋根裏部屋一杯の銃や弾や刀を見つけてしまい、売るように通達。
結局は、泣く泣く処分せざるを得なくなります。
しかも、猟銃を手に入れるための猟師免許も取り上げられてしまいます。

そこで、睦雄は
件の今井某が猟師免許を持っているので
自分の代わりに猟銃や弾を入手して欲しいと頼み、
今井も手数料を貰い承諾しています。

猟銃片手に山や林に行っては射撃の練習をしていたのですが、
その一年間、村の人達は、その事を知っています。

どうしてなんでしょう。
誰もヘンに思わなかったのでしょうか。
だって

兎くらいしか捕れない地域なのに。

それとも、そこだけは「田舎の人のおおらかな、なんちゅーか、まったり感」が働いたとでも?
まさか、その猟銃で何かするつもりだったとは全く思ってなかったんでしょうか?

そこを敏感に察したのが
前述した人妻・町子でした。

それで、何だかんだあり(飼い犬を食べたりとか奇行が続く)、村人も何となくマヒしちゃったのか、
睦雄が山で特定の松の木を人に見立てて射撃練習してても誰も警察には言いません。

二度目に猟銃を入手したのは
実は家に残った、ささやかな畑や山も担保に入れて借りたお金で買った物でした。

どこのウシジマくん?
カウカウファイナンス
利息は十日で五割?

どうしてかって言うと、この時、都井家は
絶望的にお金がなかったのです。

凶行の後、調べたら、家の中にも睦雄の所持品からも全部で六十六銭しか残っていませんでした。

それまでは中二病の計画でしかなかったのに
こうやって経済的に自分を追い込まれ
「もう決行しかない」
と決めます。

何より、サユリや睦雄を育てるために本家から貰った田畑林を失ったと知れば
祖母はもう、どうなるか想像もつきません。

そして、練りに練っただけでなく、実際に腕も磨いた訳ですが
最後は
武装する事でした。

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大量殺人なら、もっとシンプルでもよかったと思います。
それが何故にこうなったか。

頭が良くて感性豊かであったがゆえに
睦雄は心身の療養ではなく

自分を否定する世界をブッ壊す事にした

そんな風な武装です。

津山事件の真実(津山三十人殺し)

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いつも読んで下さってありがとうございます。

次回は「本当に憎んでいたのは?」です。


津山三十人殺し~5.泥沼不倫はあったのか?~

皆様、おはようございます。

「肉体的・精神的・社会的な見地から読み解く津山事件」(だから、WHOか?)でございます。

事件の要因になったのは

「閉塞的な農家の村で
フリーなナイトライフが原因でわないかっ!?」

と当時の報道から
後のルポタージュにまで書かれています。

何でかって言うと
その一番の理由だと思うんですが
都井睦雄の遺書に
アレコレと書かれていたからです。

遺書は三通見つかってます。

一通は姉・サユリに向けた内容で反省の言葉。
一通は誰が読んでもいいように書かれた内容。
上記二通は自宅に置かれていました。
犯行前の物ですから
ホンキ度120%。

最後の一通は自殺した遺体の側に置かれていました。
こちらは犯行後の物で
千々に乱れた部分が多少はありますが、
なんつーか、これだけの事件を起こした後の遺書とは思えない
ああ、スッキリした
っていう感じが伝わる反面
逃がしてしまった者への悔いも書かれています。
それと特筆すべきは
自分は精神的に正常な上でこうした事を起こした
とあるところです。


で、姉に書かれた物以外は
○○と何回もヤッた
××とも何回もヤッた
△△は何回もヤッたのに一番ひどい仕打ちをされた

と名指し指定。

関係を結んだと書いてある女性のうち、二人は生存していますが
後の方々は亡くなっていて
警察も事実関係を調べるのに苦労しています。

「関係を結んだ」
とされる女性のうち生存した二人。

一人は近所の人妻・町子(仮名)。
もう一人は年齢も睦雄と近い、けど人妻になったばっかり、で離婚したばっかり、で再婚したばっかりの洋子(仮名)。

睦雄は町子を逃がした事を悔やんでいると
何回も遺書に書いています。

それがかえって疑問なんですよね。

この町子さんは盗癖と虚言癖があって
村ではちょっと浮いてて、あんまり信用されていませんでした。

「取り逃がした・悔しい」

とありますが、

事件の起きる三日前に
堂々と
京都府に引っ越ししてます。

しかも、それ以前に何回か
出稼ぎと称して津山や大阪にも行ってます。
三回目の時には
やはり人妻の佐知子も一緒に引っ越そう
どうしてかと言うと都井睦雄か何かやるらしい
と言ってます。

なんか、ワザと逃がしたようにしか思えません。
そう思って遺書を読み返すと
ワザと逃がした訳じゃない事を
誇張してるように思えて来ます。

実はこの時、町子は妊娠中で
この子が睦雄の子供らしいので
それを知った睦雄は逃がしたのではないか
松本清張氏は書いています。

これも何かヘンです。

だって、事件の時は
妊婦、子供、年寄、無差別殺人です。

町子の供述を読むと否定のオンパレード。

「睦雄さんとは関係した事がありません。
勝手に近くに来て腰を擦り付けて来て
射精したり、
十円札(当時は一円=2,500~3,500円くらい)を押し付けてきて
押し倒されたけど最後までする前に射精してしま(略)」

誰がこんなヨタ話、信じるかっ!

夜這い禁止教化指定地域
てのもあったかと思いますが
ありのまま話すデメリットが町子にはないのです。

洋子は長らく睦雄が執心していた女性ですが
なんと新婚の自宅へ夜這いに来る睦っしゃん。
それが原因かどうか分かりませんが
近親結婚を理由に離婚した。
って、それ、結婚前に分かると思うんですが。
それで慌てて再婚、事件当日は里帰り中。
からくもよその家の床下の逃れました。

もう一人、睦雄が執心していたのは
やはり同年代の里子。
当時は人妻で、やっぱり里帰り中。
彼女は軽傷で済んでます。

睦っしゃんはこの里子には
本気で想いを寄せていたようで
ストーカーまがいの事までしてますが
何故か無理に肉体関係を結ぶ事はしていません。
本気でホレてる相手には簡単に手を出せない
とかよく言いますが、本当にそんな感じです。

実際、睦雄もそろそろ結婚したらと
周囲に勧められていた時期もあります。

ところが、本命の里子は
急に別の男性との縁談が決まり結婚。

熟女好みなのか年相応なのか判断に苦しむところですが、
睦雄は大阪や津山市に時々行っては
遊郭遊びをしたりしています。
人妻に十円も払って関係を強いるよりは普通です。

つまり
若くて美しい熟女や年頃の娘さんを選び放題、今夜はあの家でアッハ~ン♪
明日はあの家でアッハ~ン♪


な訳がないっ!

野良着だし、洗練された女性は皆無。
それより

若い娘たちからは
避けられた
んじゃないかと思うのです。
それをストーカーしたり、金品で強引に迫る。
夜這いのルールとしては逸脱してます。

だから、働かないでブラブラしてて
子供を集めてお話聞かせたりしてるから
結婚でもさせよう
そうしたら落ち着くだろう
となると
廻りの若いお嬢さんたちは
睦雄がどういう性格か何となく知ってるので危険を察知してバタバタとよそへ嫁に行ってしまう。

特に姉・サユリが結婚し、家から出て
よそへ移転してから
補習科も行かなくなって
そうなると男性とのコミュニティーからも疎遠になる。

そうこうしてるうちに
ついに徴兵検査・丙種という結果に
経済的にキツくなって来ます。

ただ、この頃は
まだ「狂気」と呼べる物は発芽してなかったのでしょう。

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↑こんなん、家に来たら怖いよ。


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八つ墓村 (講談社プラチナコミックス)

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いつも読んで下さってありがとうございます。

次回は「村にイジメはあったのか?」です。

 

津山三十人殺し~4.陸っしゃん、ひきニート化か?~

皆様、おこんばんは。

津山事件の閑話休題

事件の舞台となった「貝尾でなんぞ、大量殺戮が起こっとるらしい」と第一報を聞いた巡査さんは
都井睦雄か!?」
と即座に聞いています。

それくらい、事件前の都井睦雄
何かヘン
な存在だったようです。

尋常小学校出てからは
畑仕事もやったりやらなかったり。
末期の頃は完全に放置してます。


都井睦雄に中学進学後に
教員や巡査を勧めたのは
もちろん学校の先生。

当時の都井睦雄の通知表を見ると
体育の成績も良いんですよね。

この先生、やはり慧眼でして
睦雄には百姓は向いてないと早くに見抜いていたようです。

しかし、明治の頃から
育英会みたいに奨学金制度があったのを
何故に活用しなかったのか。
調べても分かりませんでした。
県人会にもそうした制度があります。
教員や巡査になった場合
ほぼ、免責されるんで先生が知らなかったとも思えません。

あっても利用した生徒がいなかった
そうした制度利用をしてまでの進学は恥ずかしいという意識だったのでしょうか。

で、都井家の経済的先細りが理解出来てきた睦雄ですが
当時の少年向け雑誌を買い込んでます。

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しかも、古本。

当時の村祭りには
こうした子供向けの雑誌をですが
表紙だけ綺麗な物と換えたり
ひどい場合は前後バラバラな状態の物を一冊にして夜店で売っていました。

たちまち夢中になる睦っしゃん。

実際には自宅で百姓せずに稼ぎたい
現代でも
引きこもり&ニート
最初に目指すのは作家だったりします。

けれど、太宰先生のような「文学」を書くには高い教養と
あちこち出掛けて体験してくるパワーが必要
児童文学なら
そこそこの科学知識と創造力の自由の翼で何とかなるかも……と思ったらしく
一時、自宅の屋根裏の自室で
小説を書いたりしてます。

今でも作家志望なんだけど
車椅子の生活を送ってる子には
童話作家を勧める先生がいます。

ただ、当時から、こうした少年向け小説は
それこそ横溝先生や江戸川先生が
別のペンネームで副業的に書いていた
てな事を見抜く力は
睦っしゃんにはなかったようです。

自分の書いた小説を
近所の男の子を集めて話す事が増えます。
子供にはそれなりにウケていたようですが
大人はビミョーな表情。

18過ぎた(当時の感覚としては)大人が
勉強も百姓仕事もせず
冒険潭を子供集めて語ってる図は
異様に見えたのかもしれません。

いっそ、紙芝居で生計を立ててたら
違う未来があったかも。

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お話始めるよ~。聞く子はお菓子買ってね~♪

こうした児童向け小説を読み聞かせる事は
教師になりたい希望への代替行為です。
そして、村の男や女と違い、子供たちはバカにせず
ワクワクした瞳でお話を聞いてくれます。

この「中途半端に願いを叶える」事と
少年向け小説の世界を作る行為が
睦っしゃんをますます大人の世界から遠ざけます。
けれど
「真の意味での大人になんかはなりたくない。
そこにはやりたくもない労働や義務が生じる」
と、どこかで分かっていたのでしょう。

その「真の意味での大人になる事」を強要された時、
何かが都井睦雄を壊します。


津山三十人殺し 最後の真相

津山三十人殺し 最後の真相

ミステリーの系譜 (中公文庫)

ミステリーの系譜 (中公文庫)

いつも読んで下さってありがとうございます。

次回は本題、「泥沼不倫は本当だったのか?」です。

 

津山三十人殺し~3.ぶっちゃけ、詐病だったの?ガチだったの?~

皆様、おこんばんは。

津山事件の都井睦雄ですが
「当時は差別の対象だった結核うんぬん」
てのも事件史にはよく出てきます。

事件を時系列から説明するのは
他のブロガーさんがたくさんされてますので、私は
「社会的・肉体的・精神的に読み解きたい」
と考えてますが(WHOか?)、
この結核だと都井睦雄がどれくらい思っていたのか。

って言うか、ツベルクリン反応検査って当時、すでに存在してましたが、
あんまりポピュラーではなかったのです。

簡単だし、さっさと広めていたらと思うんですが。

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↑こーゆーヤツ。

一般的になったのは
戦後の昭和26年の「結核予防法」が決まってからです。

戦前はいろいろデマも広まってて
遺伝的な病気だと言う人も少なくはなかったでしょう。

それにつけても不可解なのは
都井睦雄の持病へのスタンス。

徴兵検査で
「健康だから不合格にしないで」
と泣いたという説、
逆に
「具合が悪いから、しっかり診て欲しい(不合格にして欲しい)」
と言ったという説があります。


何よりショックだったのは
甲乙どころか丙種になった事のようです。

村では他にも丙種になった男性がいますが
この人は耳が不自由でした。

都井睦雄としては
「完全な健康体で仕事も兵役も可能なのは困る。
仕事や兵役にはつけない程度の虚弱にしてくれないかなぁ」
が本音だったのではないでしょうか。

ともあれ、
丙種認定は本人にひじょうに苦痛だったらしく
この時期から
あちこちの医者に行く、いわゆるドクター・ショッピングを始めます。

各医者のカルテを読むと
都井睦雄への印象がみごとにバラバラです。

「栄養状態良好」
とあれば
「青白く神経質そう」
と医者によって受ける印象が違います。

けれど診断はいつも同じ。

「肺カタル」。

で、出される薬も少し炎症を抑える程度の物ばっかり。

当時の診断としては聴診器での聴診。

f:id:slowstudy:20160220200725j:plain

はーい、胸の音を聴きますよー。

それと打診。f:id:slowstudy:20160220200709j:plain

片手を当てて、もう片方の手の指で軽く叩いて音を聴きます。

レントゲンなし。


ツベルクリン反応検査なら一発で分かるのに
せめてレントゲンなら詳しく分かるのに。

ドクター・ショッピングと並行して
怪しい広告の怪しい薬を買い漁ったり
代替医療の本をたくさん買い込んで
変な健康法を次から次へと試したり。

この辺りから、自宅の財産が減ってきます。

姉のサユリが高等小学校卒業後に
補習科のクラスに通わせてる内はまだ地域の男性とも繋がりがあったのですが
中学校の通信講座の教材を取り寄せて
見ただけで挫折。

それこそ、補習科で勉強する事も出来たのに、です。

何か、「極端な白黒思考」が垣間見えます。
「百点が取れないなら零点と同じ」
と言うような。

そんなこんなで
「畑仕事が出来ないくらいの病弱で、
でも結核って診断は嫌」
というファジーな願いは木っ端微塵になる訳ですが、
何でこんな引きこもり&ニートっぽくなっちゃったんでしょうか。

病気に関しては
若い男性に多い肺の疾患(慢性呼吸器不全とか)だったんではないでしょうか。

実際、猟銃持って弾と日本刀を担いで自転車用ランプぶら下げて
三十人も殺傷する基礎体力があったのです。

火事場のバカ力もあったとは言え。

夜見の国から?残虐村綺譚?上

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夜見の国から?残虐村綺譚?下

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ミステリーの系譜 (中公文庫)

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いつも読んで下さってありがとうございます。

次回、「泥沼不倫はどこまで本当だったのか」
です。

 

津山三十人殺し~2.実は面倒臭い家庭環境~

千葉県某所より、おこんにちは。

「津山事件」ですが
ルポタージュというか、
筑波氏の本が有名過ぎて
後年、若い石川清氏が調べ直すと虚偽が多いと判明。

この事件を描いた漫画家はみんな、筑波氏の本に騙され……いや、ベースにしてますから、実際とは違ったドラマになるのもやむなし。

横溝氏の「八つ墓村」もいろいろ調べた形跡が
出てくるキャラに反映されてます。

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イケメン過ぎる金田一探偵。

凶行の加害者・都井睦雄の当日の服装ですが
「懐中電灯を前に来るように手拭いを工夫している」
んですが
当時の少年向け雑誌に似たコマがあり、
どうやらこれを参考にしてるんではないかと思われます。

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ですから
「懐中電灯を上に差してる絵や映画はマチガイ」
なんですが、
ちょっと変に思ったのは
都井はもう青年期。
少年雑誌を読む年代ではありません。
これも布石になりますが後日。

んで、都井睦雄の家庭環境ですが
「祖母・ヨネと姉・サユリの三人暮らし」
です(仮名)。

これは間違いないですが
そこに至るまで大変だったようです。

まず、都井家はそこそこの分限者。
お金も地位も(そこそこですが)あります。

祖母ですが
戸籍謄本を見ると
都井睦雄の祖父の後妻として入籍されてます。
愛人や妾説もありますが、きちんと入籍してはります。
やがて祖父の息子と嫁(都井睦雄の両親)が結核になります。
そして祖父が亡くなります。

ここからが問題です。

祖父の弟は後妻のヨネに
結核の長男夫婦と、その子供であるサユリと睦雄を連れて
家を出ていってくれ
と手切れ金や不動産を適当に持たせて追い出し、
自分が家長に収まります。

凶行の夜も、この祖父の弟は
自分の所へも来るんじゃないかと隠れていたと言いますから、跡目争いに関して後ろぐらい気持ちが相当あったようです。

祖母ヨネですが、
古家と田んぼと山を貰い、
生活は苦しくはなかったようです。

睦雄の両親が幼くして亡くなり、
後に残された姉のサユリと睦雄は
この「ばあやん」に育てられます。

この幼少から育ててくれた「ばあやん」と自分に

血縁関係がない

のを都井睦雄はいつ、どこで知ったのかは不明です。
ただ、知る機会は多く、知ってしまったためとしか思えない奇行も増えています。

義理祖母ヨネが居を構えたのは
実は

曰く付きの家

でした。

昔、不倫のこじれから
切腹自殺してる人がいた家で
これを

「祟りじゃあああああ~っ!」

と揶揄するにはちょっと不謹慎と言うか、
とにかく現在でいう「事故物件」で安かったし
長らく人が住んでなかったので

ヨネが選んだのも分かります。

ヨネは睦雄を溺愛し
あれこれ理由をつけて小学校入学も一年遅らせてます。

後に中学(現在の高校)進学の話が出た時も
「都井家にはお金がなかった」
だから、病気がちを理由に諦めさせたという本が多いですが、
事実は真逆。

田んぼや山で当時は十分進学可能な財産があったのに、
中学進学となると睦雄は近くの下宿生活になる、
つまり村から出ると聞いてヨネ、パニック。

「サユリはいつか嫁に行くし、
ワ゛ダジを一人にするのかぁああああっ‼」

と、あんまり嫌がるので
睦雄は進学を断念します。

学歴は未来への投資、とは考えられなかったのか、
あるいは。

睦雄が中学卒業したらホワイトカラーになって、ますます自分から離れてしまう。
それより、農家の息子として、いつまでも側にいて欲しい
てのが近いと思います。

現代もそうですが
親は子供が将来一人で生きていけるようにする義務感があります。
が、親と違って、祖父母からすれば
孫なんてペットかマスコットです。

そんな必要もなかったのに
中学進学を諦めた時から
睦雄は空想の世界と現実を行き来するようになります。


神かくし (秋田文庫)

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津山三十人殺し―日本犯罪史上空前の惨劇 (新潮文庫)

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津山三十人殺し 最後の真相

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いつも読んで下さってありがとうございます。

次回は「病理学から見る事件」です。