ネジ巻き事件簿

精神的肉体的社会的側面から見た事件史。

絶歌 神戸連続児童殺傷事件

絶歌~終章.お前の負けだ~

熊沢はミネラルウォーターをガブガブ飲んで一息ついたようだった。 「携帯電話もインターネットも普及してなかった当時に医療少年院入り、ようやく出所したら世の中やツールがとんでもなく変わっていた。 それでもバブルの残骸で何とか暮らして行けた。 そこ…

絶歌~9.ハウス~

熊沢は再び旨そうに煙草を吸った。 「ここでAの中に何が起こっていたか。 地元には少ないけれど仲のいい友達がいた。 Aの思う 『選ばれた人間は、そうでない人間を雑に扱っても問題ないんじゃないか』 『そもそもヒトの一生には意味などないんじゃないか』 …

絶歌~8.コントロール~

社長は最初は少し興奮ぎみだったが、少しすると腕組みをして考えるポーズになった。 「ただ…………何か腑に落ちないな。 つけ回した上級生は女子。 ハンマーやナイフで襲ったのも女子。 なのに何故、最後の被害者は男児なんだ? よく言われる 『ナイフや凶器が…

絶歌~6.黒い羊の定理~

熊沢は社長の質問には直接答えず再び話をずらした。 「手記の父親パートですが 『……でした』『……がありました』 と朴訥と言うか言葉での表現が苦手な方です。 家庭では妙に影が薄いんですが」 「『男や父親としてのロールモデルにならない』 とかゆーやつね…

絶歌~5.我が子をモンスターにするには~

熊沢は冷淡な口調で言った。 「『少年A』、面倒くさいですから、Aで通します。 その両親の手記は読まれたとおっしゃいましたね」 「ああ。まあ、フツーに『加害者の親の手記』としか感じなかったけど」 「それが当たり前の反応だと思います。 ただ、当時のA…

絶歌~4.殺人ボランティア~

「その可能性」を全く持ってなかったのだろう。 少し青ざめ、唇を震わせて言った。 「もしや…………代理人がか?」 熊沢は相変わらず、無表情で答えた。 「それは分かりません。けれど、社長もこの手記を読まれましたよね? 違和感があるんです。 『事件に至る…

絶歌~3.○○を持った渡り鳥~

社長はため息をついた。 確かに「未成年者の凶悪犯罪」だった。 当時19才の永山則夫はピストルで四人の人間を殺傷している。 「拳銃での犯罪、ってのは今でもレアなケースですね」 熊沢は眉1つ動かさずに言った。 「北海道でネグレクトに近い育て方をされ、…

絶歌~2.無知の涙~

都内、某出版社。 「おおい。熊沢君は?」 社長は熊沢の姿をここ10日ほど見ていない。 オフィスの入り口で声をかけると忙しそうにしている別の男性社員が答えた。 「熊沢さんなら、ずーと、使ってない物置部屋にいますよ!」 物置部屋と言うかたまに在庫を…

絶歌~1.前夜~

〈このストーリーはフィクションです〉 都内、某出版社。 「おおい、プー君いるかい?」 「社長。本名が熊沢だからといって『プー君』はやめて下さいと何度も言ってますが。まるで働かないでブラブラしてる男性みたいじゃないですか。このナイスバデーな妙齢…