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ネジ巻き事件簿

精神的肉体的社会的側面から見た事件史。

下山事件~8.最後の夜汽車~

今回で最終章です。


医師「…………君は最初に……」


水「まず、線路近くでうろついていた

『下山総裁に似た紳士が、時々、草をむしったりしていた』

という目撃証言ですが
背広のポケットから、カラス麦の実がいくつか出てきています。
これは食用に改良された最近の

『オサレなオーガニックな雑穀』

ではなく、フツーに雑草ですね。
手持ちぶさただったのが、よく分かります。

次は
検証本でよく話題に上がる、いわゆる『下山油』と呼ばれる物について」


医師「上着やワイシャツにはベットリとヌカ油が染み込んでいたのに、褌には少ししか染みていない、と言われている」


水「この時代って、服装は西洋に追い付いてるのに、下着がまだ遅れてますね。
『スーツにフンドシ』
ですよ!

以前、訪問先で
『紙オムツに勝負ブラ』
という方がいらして」


医師「話を進めて(泣)」


水「列車の整備には重油が必要なんですが
当時は混ぜ物をして使っていたようです。
で、こうした列車事故の場合、真っ先に車両や車輪に絡まれるのは衣類だと思います。
くつ下は無事でした。

『総裁の愛用していた
ロイド眼鏡・シガレットケース・ジッポライターが見付からない』

というのも話題になりました。

ロイド眼鏡なんですが、これ、ムチャクチャ熱に弱いんです。
フレームは溶けて、ガラス面は粉々になったんだと思います。
しかも、8分遅れで発車し、どこか慌てている運転手と走る列車、視界がきかない夜に大雨。

列車のスピードはかなりあったと思います。

どこかにはね飛ばされたのか。
近くの川もさらってますが未発見です。
これも原型を留めていない可能性があります。

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カラス麦


水「総裁の当時の精神状態なんですが、不眠を訴えて
主治医がブロバリン、医薬品名ブロムワレラレ……痛い、舌、噛んだ」


医師「ブロムワレリル尿素、ね」


水「一回0.5グラムを
何包か処方されてます。
この頃の総裁の不眠は重度で
一回分では効かなくて、何回か追加して飲んだりされる事もあったと夫人が仰ってます。

で、ブロムワレラレ……痛。

このブロムワレリル尿素てのは
あ、今度はちゃんと言えた。

現在でも存在しますが
あんまり処方されません。

最近はマイナートランキライザー
睡眠導入剤の質も種類も増えてますし
何より、この薬は
不眠にはひじょうによく効くし熟睡感もあるのですが


脳の活動そのものを低下させる作用があります」


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市販薬。

医師「……奇行はこのせいか」


水「多分。自殺にもよく使われた薬だそうです」


医師「…………結局の所は?」


水「全身の傷、擦過傷ですね。
その図です。
致命傷がない。
打撲や深い刺傷、絞殺後もない。

何より、傷が左右対称。

誰かの暴力を受けた場合、こんな風にはならず
相手が複数だとしても
右だけに多い、左だけに多いと偏りが出ます」

注※略図


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医師「…………では……」


水「列車に正面から衝突された衝撃による即死。
生体反応がないのは
既に亡くなっている状態で轢断されたから、です。

『体の血液を抜かれて殺害』説ですが
体幹が比較的、無事で所見を見る限り
肺にはたくさん血液が残っていますから、あり得ないと思います。

失踪当日
車で、あちこち回った行動ですが、うつ傾向のある人は
トランス中毒と言うか
乗り物に乗ってぼんやりしたがる事が多いです。

要人に何人か会いに行って、自分からブッチしてるのは
何とかしなきゃいけない気持ちが強く、けれども人と会いたくない
という、うつ傾向の人にある焦燥感や忌避感が伺えます。

本社の前を通り過ぎる時に
『もっと早く走ってくれないか』
と言ったのも、国鉄職員に姿を見られたくなかったんだと思います」


医師「うーん。符号が合う」


水「けど、みんなが殺したんです」


医師「え?どういう事?」


水「最初の仕事が大量リストラと分かってて
『君にしか出来ない』
と嫌な職務を押し付けた政府。

ギリシャの破綻を持ち出すまでもなく
国民の数人に一人が公務員、というようなデタラメな雇用を放置していた戦後の政府全体。

そして、次の再就職先や、その受け皿も用意せず、12万人もリストラした労働省

数字だけを見て、それを命じたGHQのミスター・ドッジ。


総裁は子供の頃は、お父さんの仕事の都合で転校を繰り返してます。
なのに、どこに行っても人気者でした。

汽車が好きで、界隈の路線や駅名を全部覚えられる、時刻表まで覚えてるすごさ。
何より、真面目で優しい人柄。

総裁は三越を出て、大学生の頃に部活のために
よく行っていた五反野に向かったんです。


そして、四時間も五時間も
死に場所を探していたんです。


列車を避けて柱にもたれかかっている姿を何人か見ています。

いつ飛び込むか、いざその時になると怖くて
けれど
もう、辛くて辛くて
丸一日、職場を放棄した上で
夜になって大雨になって


そして、ようやく線路の前に立ったんです」


医師「……………………」


水「その死をも、他殺にして
共産党狩りに利用しようとしたGHQと政府。

ところが、それこそ『GHQが絡む謀殺』にして、新聞や雑誌をガンガン売ったジャーナリスト。

これは困る、と慌てて
やっぱり自殺で発表しようとしたら
今度は

『心優しい総裁を自殺に追い込むGHQ

と、世論はやっぱり悪く言う。
これも分が悪い。

だから、直前になって公式発表は取り止めて、後はうやむや。
捜査本部も解散

これ、今なら過労死かパワハラか、ですよ。

おかしいと気付いてた人がたくさんいたのに
そして、睡眠薬も処方されてるのに
どこかで誰かが、無理矢理にでも休ませてあげていれば」


医師「うん。可哀想だな…………。
今は個人の会社が
そういう事を平気でやるんだもんな。
路線図や時刻表も覚えている人だったから
踏み切りもない…………自殺しやすい場所だと知ってらしたのかもな。
土地勘があっただけでなく、若くて楽しかった頃の思い出のある場所での
数時間の放浪だったのか」


水「国家単位のリストラだったんで、逃げられないと思われたのは分かります。
結果、リストラは断行。


これからどんどん人件費が下がって行くと思いますが
私はこうした悲劇を減らして行きたいです」


医師「…………ところで、中華街に行ってた『人探し』ってのは?」

水「その件ですが…………また、アレコレ聞きに伺ってもよろしいですか?」

医師「誰を探してたの」

水「私に瓜二つの親戚の、昔の仕事などを」

医師「さっぱり訳が分からないんだが」

水「とある事件を調べて、資料を掘ってたら思いがけなく、その人がちょっと……ムニャムニャ」

医師「とある事件?」


水「

 

 

帝銀事件

 

 

です」


医師「うわぁあああっ!
君、今度こそヤバい!」


新版・下山事件全研究

新版・下山事件全研究


古書で高価だったのですが、最近、復刻版が出ました。
情報量やその精度の高い良書です。

参考資料は他にもたくさんありますので、興味のある方はググってみて下さい。


いつも読んで下さって
ありがとうございます。


帝銀事件」編・COMING SOON(年内には、何とか)

そして、下山定則総裁のご冥福をお祈りします。