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ネジ巻き事件簿

精神的肉体的社会的側面から見た事件史。

下山事件~5.昭和の男~

ブクマの不具合が直りません(泣)。
詳しい方、教えてください。


下山総裁の遺体発見、捜査一課。


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平塚「なあ、石橋。
俺ぁよう。調べれば調べるほど、この事件には『事件』の匂いがしねぇんだ」

石橋「先輩らしくない。最初は
『他殺八割・自殺二割』
と仰ってたのに」

平塚「石橋。お前、この火鉢見て、どう思う?」

石橋「炭が燃え尽きて白くなってますね。
先輩の火の付け方は独特ですが」

平塚「炭を灰の上に置いて、新聞紙を細く巻いてよ。
炭の周りに何本か刺して、それから新聞紙に火を付ける。
するってぇと、炭にも簡単に火が付く。
俺からこのやり方を教わったヤツが、今朝一番に、ここに来て炭火を起こした。
けどよ、こんだけの炭を燃やし尽くすってなると、二時間はかかる。
とは言え、けどよぉ、昼間は捜査で誰も居なかった。

なのに夕方の今でも部屋は温けえ。

どうしてだと思う?」

石橋「むー」

平塚「単純に、そこのストーブに火を付けただけなんだけどな。
その方が早く暖まるしよ」

石橋「…………すごい推理を期待しちゃったじゃないですか!」

平塚「『捜査』ってのはそういう物だって教えたじゃねぇか。
細かい事実の積み重ねだ」

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一酸化炭素中毒に注意。

平塚「俺もよ、東大の偉い先生が『死後轢断』って言うんで、そうか、なら殺人だと思っちまったぜ。
けどよ。
『殺人』かどうかは分からねぇんだよな。

例えば
『別の場所で自殺してるのを線路に移動させた』
ってんなら『死体遺棄・損壊』な訳だ。
けど、そしたら何のためだ?
何でみんなして『殺人』に持って行こうとする?

写真も見たけど、マグロ(轢死体やその断片)って言うより、溺死体みたいだっろう?
大雨で遺体がふやけたんだ。
それに『殺人』なら、殴られたり絞殺されたりした跡があるはずなのに、そんなモンねえ。
かと思えば、胃の中は空っぽ。
どう思うよ」

石橋「ううーん。どこかで監禁された上に痕跡を残さない形で、そして線路へ」

平塚「な?やっぱり『推理』しちまうだろ?
有名な推理小説の『先生』もだが
最近じゃ床屋の店主と客が推理探偵ごっこしてやがる。

俺ぁ、推理小説ってのは、実際の捜査とはかけ離れた『物語』だと思ってる。

何でワザワザ
『伝説の通りに死体を見立てる』
んだ?
そんな事してて現場に長く居すわっちまったら、現行犯で捕まる可能性が高まるだろ?

『少年探偵団を使って証拠集め』?
ただでも素人で、しかも、じっとしてるのが苦手な年代のガキをたくさん集めて
加えて言うと、ガキってのは何でも誰かに喋っちまうのに?

何なんだ?世の中みんな、この事件を知ると『探偵』になりたがる。

俺ぁ、そいつが気持ち悪りいのよ」


前年には
帝銀事件」に関わり
後に
「吉展ちゃん誘拐事件」
を鮮やかに解決し
さらに後に
三億円事件
の捜査のリーダーとなる、名刑事を悩ますのも無理からぬ話でした。


下山総裁の遺体発見から
続々と目撃情報が集まったからです。


三越の一階で店員に目撃されています。

そして三菱本店では貸金庫に。

後日、実弟さんと立ち会いの元で開けたら
中には
三万円(現在だと300万円くらい)と
春画

この春画ですが
元々そんな物は無かったという説
あったけれど下手くそな絵だったという説があります。

これについては
「事件とは関係なし」
とされています。

そして、下山総裁は一万円を持って行っていました。

知人の方の出産祝いを贈る予定があったらしく
それでお抱えの大西運転手氏への
三越へ行ってくれ」
白木屋でもいい」
と百貨店に行くように指示したのではないか。
そう考える方が方が自然です。


そして吉田茂首相に会いに
首相官邸へ。
吉田首相はそこではなく
外相官邸に居たので移動。
来客中だけど、待っているように言われると


「会議があるから」


と引き止めるのも聞かずに
架空の会議を持ち出してブッチ。

警察庁に行ったり
けれど誰にも面会を求めず帰ったりしています。

こうした情報がボロボロと出て来ます。

ストライキだデモだ、で国鉄本社前は荒れていたので
7月4日だけでも
いろんな所に行かれています。

東京駅構内の公安局長室に現れて
東京新聞を見た後、本当にショックを受けていたようです。

元々、焦燥気味でしたが
決定的だったのは
国鉄職員の一次削減・三万人の新聞記事を見て

「三万人もやったのか」

と呟く総裁。

もちろん御存じのはずですが
目に見える形で数字を突き付けられて
改めてショックを受けたようです。

この後、前述の
「お茶は要らないと言いながら他人の飲み残しを飲む」
「他人の分のアイスクリームを
ズボンを汚しながら食べる」
などの精神的不安定な行動を見られています。

駅長が見送りに行きますが
「もういい」
と言います。
心配になって、更に付いていくと
駅長の肩を押し戻し
「もういいんだ」
と言って、それ以上は止めて
駅長は駅長室に戻っています。


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鉄板なのは、現場から近い場所にあった末廣旅館からの報告。

7月5日午後2時頃に下山総裁に似た紳士が現れます。

「少し休ませて欲しい」
と言うので部屋へ案内。

「水を一杯下さい」

と言うので女将さんはお茶を持って行きます。

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宿帳の記入をお願いすると
『下山総裁に似ている紳士』

「それは勘弁してくれ」
と断ります。

この紳士は夕方の6時10分まで寝ていて、200円を支払い、いわゆるチェックアウトしています。

結局、この紳士の名前は分からずじまい。

けれど、服装や靴の色、何より警察が公表してなかった「黒い綿の靴下」まで、女将はバッチリ覚えていました。

「殺人」の線で動いていた警察は蒼然。

この紳士が下山総裁なら
事件性がグッと下がります。


その後も、この線路の付近で続々と目撃情報が。

時には、カエル取りをしていた親子が
時には、畑仕事をしていた人が
時には、散歩をしていた人が
時には、銭湯帰りの親子が
時には、カエル取りをしていた別の親子が
時には、ザリガニ取りをしていた親子が
時には、煙草屋の店番の少年が(オイルを入れてくれと頼まれて、ジッポライターにオイルを足してあげてます)

ブラブラと歩いたり
トンネルを出たり入ったり
草をブチブチむしってたり
寂しげに煙草を吸っていたり
汽車を避けて柱の側にいたりしている
下山総裁に似た紳士を目撃しています。

線路のある界隈は田んぼが多く、いわゆる都会ではありません。
地域の人達は見知らぬ人に敏感。

それと、度々、汽車を避けている紳士を見て
危ないと思っていました。

しかも立派な服装をしていて、見るからに偉い人っぽいので
周りの風景から浮いていました。

だから、目撃した人達は不審に思い、ガン見し、一様に、よく服装や顔を覚えているのでした。

何より問題は
夜の11時から0時の目撃情報。

この紳士が下山総裁だとすると
「別の場所で殺害されて線路に移動」
は不可能です。


そうすると今度は

三越で複数人に拉致された」
「遺体は替え玉」
「線路の付近でウロウロしていたのが替え玉」
「貨物列車を使って遺体を高速移動」
「闇夜に紛れるように黒いビニールに遺体を包んで移動」

などなどの説が出て来ます。


再び時は戻り。


平塚「前に知り合った女に言われたんだけどな」

石橋「美人でしたか?」

平塚「そういう色っぽい間柄じゃねぇよ。
事件絡みでな。ちょっと不思議な女だったよ。

『正義も悪も、極端な色の色眼鏡でしかない』

って言ってやがったなぁ」

 


さて、現代の某所。

医師「…………この時代はまだテレビもないから、確かにスクープだったんだろうけど」

水「出版物はすごい事になってるのが
当時の記録をググっても分かります」

医師「肝心の司法解剖所見は?」

水「読みました。しかし、これもかなりアクロバティックでして」

医師「ふむ」

水「東大の古畑教授の名誉にかけて、捏造などではないと思いますよ。
ただ
『汽車に轢かれた時には、すでに亡くなっていた』
を巡る所見がアクロバティックなんです。

 


正義も悪も、極端な色眼鏡で見ると
真実が分からなくなります」


刑事一代―平塚八兵衛の昭和事件史 (新潮文庫)

刑事一代―平塚八兵衛の昭和事件史 (新潮文庫)

いつも読んで下さって
ありがとうございます。