ネジ巻き事件簿

精神的肉体的社会的側面から見た事件史。

津山三十人殺し~6.村のイジメはあったのか?~

皆様、おこんにちは。

佳境に入ってまいりました、「津山事件」。

この凶行の要因の最大たるものとして

結核を理由に村人たちからイジメを受けた。
特に女衆のは陰湿で組織的でひどかった」

とゆー説が
まことしやかに書かれている物が
漫画でもルポタージュでも溢れています。

狭い集落ですから
ほんの十数戸。

んー。

あったとは思います。
思いますが、そんなに酷かったどうかは疑問です。

確かに村の端の家で夫婦喧嘩が起これば
三十分後には際端の家に届く村ではあります。

徴兵検査で丙種なのも
男衆からアレコレ言われた事でしょう。

ただ、遺書にある通り
「さんざんヤッといて
いざ僕が結核だと診断されたら、みんなが掌を返したように」
……だったら、隔離とか
遠くに住めと嫌がらせされるとか
そういうのを「陰湿なイジメ」と呼ぶんではないかと。

確かに、距離を置いて接触して来る人もいたでしょう。
けど、子供を集めてのお話会なんかも
ソッコー辞めさせたり、って事はありませんでした。

ここで感じるのは
都井睦雄という青年の
「大人へ移行していく前のしんどさ」
みたいな物です。

夜這いも何人かとしたし、そうしたら一人前。
けれど畑仕事もしないしブラブラしてるし、
そら村の人は心配します(多分、現代でも)。

都井睦雄という人は
人一倍、頭が良かったし
何より感受性が豊かだったのだろうと思います。
なりたいモノになれない鬱屈
どうしても馴染めない百姓仕事
頼りにならない義理祖母
何より、守ってくれて慕っていた姉の嫁入り。

ここに「病」という雷管が投入され「被害妄想的になりやすい」というメンタルの変調が現れます。
だから、他人の何でもない仕草や言い回しが常に自身への不平や不満や非難に聞こえてしまったのかもしれません。

この時に、理解者がいれば
「焦らず、ゆっくり治していこうや」
と言ってくれる人がいれば
あんな結果ではなかったかもしれません。

好きな若い娘たち
みんな、よそへ嫁に行ってしまう。
まるで姉のように。

二十歳になって祖母が後見人から自動的に外れたので、
財産を好きに使っていた睦雄は
それまで健康法にハマっていましたが、キッパリ止めてしまいます。
そして、大阪や神戸に行って
以前からの顔見知りの今井某という青年と猟銃を買い漁り始めます。

今井は睦雄を
「農家の小金持ちの息子」
だと思っていたようで、度々、パシりみたいな事まで請け負って小遣いを貰っています。

この今井某とゆー人物も
後の記録を読んでも詳細が分からない人物ですが、一応は実在してます。

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↑ブローニング銃

そうして屋根裏部屋にせっせと凶器を集めます。

そこでいろんな奇行がはっきり現れて来るのですが、
ある日、祖母にお白湯(お茶という説も)を飲ませようとします。

が、臭い。臭過ぎる!

毒殺される!

と祖母は近所に相談しますが
いろいろあって巡査が来ます。
巡査は「外の人」という意識なので祖母は
「中身は『わかもと』です。毒殺なんか、うちの可愛い孫はしません」
と言います。

……「わかもと」……そう。
アノ、ビール酵母やらビタミンやら整腸剤やら混ぜた、当時のサプリメント

私が知ってんのは液体スプレータイプだったんですが
かなりの距離からでも

 

 

強烈に臭い


のです。
現在は錠剤で臭くはないと思います。

仮に、毒だとしても
何だか分かりません。
何だか分からないまま、毒殺未遂?は
うやむやになります。

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↑今でも愛好家が多いです。便秘にも効きます。

巡査は家宅捜索をして
屋根裏部屋一杯の銃や弾や刀を見つけてしまい、売るように通達。
結局は、泣く泣く処分せざるを得なくなります。
しかも、猟銃を手に入れるための猟師免許も取り上げられてしまいます。

そこで、睦雄は
件の今井某が猟師免許を持っているので
自分の代わりに猟銃や弾を入手して欲しいと頼み、
今井も手数料を貰い承諾しています。

猟銃片手に山や林に行っては射撃の練習をしていたのですが、
その一年間、村の人達は、その事を知っています。

どうしてなんでしょう。
誰もヘンに思わなかったのでしょうか。
だって

兎くらいしか捕れない地域なのに。

それとも、そこだけは「田舎の人のおおらかな、なんちゅーか、まったり感」が働いたとでも?
まさか、その猟銃で何かするつもりだったとは全く思ってなかったんでしょうか?

そこを敏感に察したのが
前述した人妻・町子でした。

それで、何だかんだあり(飼い犬を食べたりとか奇行が続く)、村人も何となくマヒしちゃったのか、
睦雄が山で特定の松の木を人に見立てて射撃練習してても誰も警察には言いません。

二度目に猟銃を入手したのは
実は家に残った、ささやかな畑や山も担保に入れて借りたお金で買った物でした。

どこのウシジマくん?
カウカウファイナンス
利息は十日で五割?

どうしてかって言うと、この時、都井家は
絶望的にお金がなかったのです。

凶行の後、調べたら、家の中にも睦雄の所持品からも全部で六十六銭しか残っていませんでした。

それまでは中二病の計画でしかなかったのに
こうやって経済的に自分を追い込まれ
「もう決行しかない」
と決めます。

何より、サユリや睦雄を育てるために本家から貰った田畑林を失ったと知れば
祖母はもう、どうなるか想像もつきません。

そして、練りに練っただけでなく、実際に腕も磨いた訳ですが
最後は
武装する事でした。

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大量殺人なら、もっとシンプルでもよかったと思います。
それが何故にこうなったか。

頭が良くて感性豊かであったがゆえに
睦雄は心身の療養ではなく

自分を否定する世界をブッ壊す事にした

そんな風な武装です。

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いつも読んで下さってありがとうございます。

次回は「本当に憎んでいたのは?」です。